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「原因者負担金」制度をご存じでしょうか。
たとえば、クルマを運転していてガードレールや信号などの道路施設に衝突して壊してしまったとします。このような事態について、道路法58条1項は
「道路管理者は、他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については、その必要を生じた限度において、他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一部を負担させるものとする」
と定めています。
これだけでは何を言いたいのか分かりにくいのですが、内容を簡略に記すと
「第三者が道路に関する工事の施行又は維持の必要を生じさせた場合には、その費用は当該第三者に負担させるものとする。」
というものです。
これがなかなかえぐい制度でして、まず第三者の故意・過失が要件となっていないことが挙げられます。第三者に故意・過失がなかったとしても、第三者の行為によって道路施設が損傷した場合には、道路管理者は工事費用を第三者(原因者)に請求できるのです。
しかも、道路管理者は、損害賠償とは違い、第三者に対して訴訟を提起する必要がありません。道路管理者は直接第三者に対して負担命令を出せばよいのです。もし第三者(原因者)が負担命令に従わないときには、国税滞納処分の例によって(税金と同じように)強制徴収ができます(道路法73条3項)。手数料や延滞金まで請求できるのです。
損害賠償では遅延損害金は年3%であるのに対し、原因者負担金制度では延滞金の利率が年10.75%とされています(道路法施行令36条2項)。
通常の損害賠償では、たとえば被害車両についての賠償は時価額が限度とされていますが、原因者負担金制度では、道路を復旧するための制度であることから、ガードレールや信号機の減価償却後の時価ではなく、実際の工事費用の負担が生じるとされています。工事費用の負担ですから、たとえば古いガードレールが復旧工事の結果新品に交換されたとしても、道路管理者の不当利得とはなりません。第三者は現在価値以上の金額を支払わされることになります。
このような恐ろしい制度があるので、くれぐれも道路施設は損傷しないように注意しましょう。
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