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生前にできる相続対策について
「生前にできる相続対策」という場合、
①遺言書の作成
②生前贈与
③生命保険の利用 が挙げられます。
Ⅰ 遺言書の作成 ➤Ⅱ 生前贈与 ➤Ⅲ 生命保険の利用
共同相続人のうちの一人に遺産を法定相続分より多く相続させたいというときには遺言書の作成が必要となります。
遺言書には、①手軽に作成できる自筆証書遺言と②公証人に作成してもらう公正証書遺言とがあります。
(1)自筆証書遺言
まず手軽に作成できる自筆証書遺言の作成から説明します。
便箋等を利用して、本文・日付・署名を自書し、押印すれば完成です。
本文は必ず自書しなければなりませんが、遺産目録についてはパソコンで作成した別紙を添付してもかまいません。ただし、その場合には遺産目録の全ページに署名・押印が必要です。
日付は特定できる日の記載が必要です。たとえば「令和6年8月吉日」などという記載は日が特定できないので無効です。「令和6年誕生日」という記載は日が特定できるので有効です。
押印は実印でなくてもかまいません。花押が書かれていた遺言書は無効とされています(最高裁平成28年6月3日判決)。これに対し、拇印は有効とされています(最高裁平成元年2月16日判決)。なお、日本に帰化したロシア人の遺言に押印が欠けていたケースは有効とされています(最高裁昭和49年12月24日判決)。
本文を書き間違った場合には所定の方法による訂正が可能ですが、やや複雑なので、改めて全文を書き直すことをお勧めします。
遺言書の内容として「共同相続人のうちの一人に全財産を相続させる」という遺言も少なくありませんが、他の共同相続人に遺留分が認められている場合には避けるべきでしょう。最低限、遺留分に相当する分は残しておかないと相続開始後に争いに発展する可能性が高いからです。
自筆証書遺言のウィークポイントの一つに保管の問題があります。これに関しては、遺言書を法務局に預けておく「自筆証書遺言書保管制度」ができました。この制度を利用すると、自筆証書遺言に必要な相続開始後の「検認」が不要となります。
https://www.moj.go.jp/MINJI/01.html
(2)公正証書遺言
公証役場まで出向いて公証人に作成してもらう遺言書が公正証書遺言です。公証役場まで出向かなければならないのが面倒ですが(ただし、公証人が出張してくれるケースもあります)、法律家である公証人が作成してくれるので無効とされることがほとんどなく、信頼性は高くなります。
証人2名の同席が必要となりますが、原案の作成や公証人との調整を弁護士に依頼すれば、弁護士や事務職員が証人となってくれるます。
公正証書遺言の原本は公証役場が保管しますので改ざんや紛失のおそれもありません。本人(遺言者)には正本と謄本が交付されます。
なお、相続開始後に相続人等の利害関係人が、日本公証人連合会の遺言情報管理システムにより公正証書遺言書の有無を検索することができます。公正証書遺言書も「検認」は不要です。
自筆証書遺言書と異なり、費用がかかりますが、できれば公正証書遺言書の作成をお勧めします。
https://www.koshonin.gr.jp/notary/ow02
なお、自筆証書遺言であれ公正証書遺言であれ、後日取り消したり(撤回)、変更したりすることができます。その場合、同じ方式による必要はなく、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回したり、変更したりすることができます。
ただし、公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回する場合、自筆証書遺言が形式不備で無効となると、元の公正証書遺言がそのまま残ってしまうので、やはり公正証書遺言で撤回するほうが無難です。
また、甲不動産を乙に相続させるという遺言書を作成した後でも、遺言作成者が甲不動産を処分することは自由です。その場合、処分された甲不動産に限り遺言を撤回したものみなされます(財産処分による撤回擬制)。
Ⅱ 生前贈与 ➤Ⅰ 遺言書の作成 ➤Ⅲ 生命保険の利用
相続税対策としては生前贈与があります。これは贈与によって相続の対象となる財産(遺産)を減らすことにより相続税を節約する対策です。贈与には贈与税が課税されますが、贈与税が課税されないような贈与を利用することになります。
以下に私の理解している範囲で説明しますが、詳しくは事前に税理士に相談することをお勧めします。
(1)暦年贈与
よく知られているのは年間110万円の非課税枠を利用した暦年贈与です。1年間に贈与を受けた金額が(受贈者から見て)110万円までは贈与税を課税されません。
この生前贈与は将来の相続税を少なくするために行われますが、2024年の税制改正により、相続開始前7年以内になされた生前贈与は遡って持ち戻して相続税が計算されます。つまり生前贈与はなかったことにされてしまいます(7年内加算ルール)。2023年まではこの年数が3年だったのですが、2024年1月1日以降に行われる生前贈与には7年内加算ルールが適用されます。実質的な増税ですね。
(2)住宅取得等資金贈与の特例
(2026年12月31日までに)贈与者の直系卑属(子や孫)に対し、住宅を新築・購入・増改築するための資金を贈与した場合、(2022年1月1日以降の贈与の場合)1000万円までは贈与税が課税されません。
ただし、この特例が適用されるためにはいくつかの条件がありますので注意が必要です。
(3)教育資金の一括贈与の特例
(2026年3月31日までに)贈与者の直系卑属(子や孫ですが、30歳未満であることが必要)に対して教育資金を一括贈与をする場合は(受贈者1名につき)1,500万円まで贈与税が課税されません。
ただし、受贈者が金融機関に教育資金口座を開設し、教育資金非課税申告書を提出することが必要です。
なお、似たような制度として、結婚・子育て資金の一括贈与の特例があります。
(4)夫婦間贈与の特例(贈与税の配偶者控除)
婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用の不動産又はその購入資金を贈与した場合は、2,000万円まで贈与税が課税されません。ただ、居住用の不動産を贈与して所有権移転登記をすると、登録免許税と不動産取得税が課税されます。
しかし、この特例の利用は節税対策としてはあまり得策ではないという指摘もあります。というのは、配偶者が相続する場合には1億6000万円までは相続税なしで相続できるという税額軽減の特例があるからです。また、相続のときに適用できる小規模宅地特例(評価減)が贈与で適用されません。細かいことを言うと、相続の場合には不動産取得税は課税されず、登録免許税もやすくなっています。慎重な検討が必要でしょう。
(5)相続時精算課税制度
これも節税対策として挙げられることがありますが、なかなか微妙です。この制度を利用すると2500万円まで贈与税なしで贈与できるのですが、相続が開始したときはこの制度を利用して贈与された金額は相続財産に持ち戻され(加算され)相続税が計算されるため(だから「相続時精算」なのです)、一般的には相続税の節税対策にはならないからです。
しかし、将来的に値上がりが見込める財産を贈与しておくと、相続が開始したときには贈与当時の価額で相続財産に加算されるため、相続税対策になることがあります。逆に、贈与した財産が将来値下がりした場合には相続税の負担が大きくなってしまいます。
死亡保険金(保険契約者と被保険者が同じ場合)は「みなし相続財産」として相続税の対象となりますが、受取人が相続人であるときは[500万円×法定相続人の数]の非課税枠があります。この非課税枠を利用して相続税を節約する方法です。
非課税枠の計算式中の「法定相続人の数」には相続を放棄した者も含まれます。昔は相続税対策のためにやたら養子がいたケースもあったのですが、現在では通用しません。現在は、養子は、被相続人に実子がいるときは1名に限り、実子がいないときは2名までが「法定相続人の数」に含まれます。
なお、共同相続人のうちの一人が死亡保険金を受け取った場合、それが「特別受益」(民法903条)に当たらないかという問題があります。
原則として特別受益には当たりませんが、特段の事情がある場合には特別受益に準じて持ち戻しの対象となります(最高裁平成16年10月29日判決)。特段の事情の有無は、「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである」とされています。
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