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著 作 物とは何か
知的財産権の中でも「商標」と「著作権」は身近な問題といってよいでしょう。
実は当事務所の事務所名「メトロポリタン法律事務所」も商標登録しております(商標登録第4758650号)。法律事務所としては珍しいかもしれません。商標は特許庁への登録が必要ですが、登録手続き自体はあまり難しくありません。商標登録は10年ごとに更新が必要ですが、著作権のような存続期間(保護期間)の定めはありません。
これから商標登録をしようとする方が類似商標の有無を調査するときは特許情報プラットホーム(J-PlatPat)を利用すると便利です。
それはともかく、以下では「著作権」とはどのようか権利かを説明しておきましょう。著作権に関する質問は顧問会社の皆様からもときどきあります。「分かったようで、どうもよく分からない」のが著作権でしょうか。
著作権法という法律により著作権は保護されています。この法律がなかなか複雑なのですが、概要を理解するには文化庁が公開している『著作権テキスト令和6年度版』が便利です。プリントアウト・コピー・無料配布が認められていますので入門書としてお勧めします。
著作権は一言でいえば「著作者の権利」の総称です(著作者の権利については改めて説明いたします)。「著作者」とは「著作物を創作する者」のことですが、著作物を創作すれば直ちに創作者に対して著作権が発生します。商標のように登録は不要ですから(無方式主義)著作権侵害という事態は日常起こりやすいのです。
そこで「著作物」とは何かが問題となりますが、著作権法は「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義しています。分解すると、①思想又は感情を、②創作的に、③表現したものであって、④文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するものが著作物となります。
ここからもう難しいのですが、①の要件から、人の思想や感情の表現とはいえない単なる事実やデータは著作物とはなりません。②の要件から、創作性のないありふれた表現も著作物とはなりません。③の要件は、著作権の保護の対象は「表現」であって「アイデア」自体ではないということです。④の要件から、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属さないものは著作物ではないということになります。
とは言っても、まだまだ抽象的であって「分かったようで分からない」という印象ですね。もう少し具体的に見ていきましょう。
「文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの」でなければなりませんから工業製品のようなものは著作物からは除かれ、特許権や意匠権で保護されることがあるとしても、著作権では保護されません。要するに実用品的なものは著作権では保護されず、芸術作品的なものだけが著作権として保護されるわけです。
ある書籍(岡本薫『著作権の考え方』)では、同じデパートの包装紙であっても、三越の包装紙(朱色の楕円の組み合わせ)は著作権により保護されるが、高島屋の包装紙(バラの花のデザイン)は著作権により保護されないという面白い例が挙げられています。その理由として、三越の包装紙は元は抽象画(芸術作品)であったものを包装紙に使ったものであるのに対し、高島屋の包装紙は最初から包装紙としてデザインされたもの(実用品)だからと説明されています。
ところで、著作権法2条2項は「『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする」と規定しています。しかし「美術工芸品」の定義は著作権法には書かれていません。
「美術」にはもっぱら鑑賞の対象となる純粋美術と実用を兼ねた応用美術とがありますが、「美術工芸品」は応用美術に分類されます。著作権法が応用美術のうち「美術工芸品」だけをわざわざ美術の著作物に含むと書いているところからすると、他の応用美術品はどうなるのかという疑問が出てきます。この点については考え方が(裁判例も含めて)分かれているところです。
「著作物」の定義は前述のとおりですが、著作権法は以下のとおり著作物の例示をしています。
(1) 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物 原稿なしの講演も含まれます。事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は該当しません。
(2)音楽の著作物 即興の歌なども含まれます。
(3)舞踊又は無言劇の著作物
(4)絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
(5)建築の著作物
(6)地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型そのy他の図形の著作物
(7)映画の著作物
(8)写真の著作物
(9)プログラムの著作物
北河隆之『交通事故損害賠償法』(弘文堂・2011年)は,2023年1月に[第3版]が刊行されていますが,同書[第3版]刊行後の交通事故重要判例や、その他の分野の重要判例を,このコーナーで紹介していく予定です。 → 最新の重要判例紹介はこちら