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差押えが禁止されている債権があります。公的年金(国民年金、厚生年金)、生活保護法に基づく給付金、労働基準法による災害補償を受ける権利、児童手当、自動車損害賠償保障法による自賠責保険金などです。
この関係で興味深い判決が最高裁判所から出ました(令和6年10月23日)。問題になったのは、文化功労者に支給される文化功労者年金法に基づく年金です。文化功労者には、終身にわたり、政令で定める年金(年350万円)が支給されます。この年金(正確には年金の支給を受ける権利)の仮差押えを当該文化功労者の債権者が申し立てたのです。
文化功労者年金法には年金の差押えを禁止する規定はありません。ところが、大阪高等裁判所(原審)は、文化功労者自身が現実に年金を受領しなければ年金の制度の目的は達せられないから、年金の支給を受ける権利は、その性質上、強制執行の対象にならないと解するのが相当である(年金受給権を差し押さえることはできない)として、仮差押えの申立てを却下したのです。
これに対し、最高裁は、法律に強制執行できない旨を定めた規定は存しないし、本件年金は、文化功労者の功績等を世間に知らせ、表彰することを目的として支給されるものと解されるから、国が文化の向上発達に関し特に功績顕著な者を文化功労者として決定することにより、その者に本件年金の支給を受ける権利が認められることで、上記の表彰の目的は達せられるものといえ、その者が現実に本件年金を受領しなければ上記目的が達せられないとはいえない。したがって、本件年金の支給を受ける権利は、その性質上、強制執行の対象にならないと解することはできない(年金受給権を差し押さえることはできる)として、原判決を破棄し、原審に差し戻しました。審理をやり直してこいというわけです。
確かに、公的年金(国民年金、厚生年金)、生活保護法に基づく給付金、労働基準法による災害補償を受ける権利、児童手当、自動車損害賠償保障法による自賠責保険金が生活保障的な性格を有しているのに対し、文化功労者年金法に基づく年金は性格が異なると思われます。
なお、公的年金等が債務者の銀行口座へ振り込まれたときは、債権者は預金を差し押さえることができます。
北河隆之『交通事故損害賠償法』(弘文堂・2011年)は,2023年1月に[第3版]が刊行されていますが,同書[第3版]刊行後の交通事故重要判例や、その他の分野の重要判例を,このコーナーで紹介していく予定です。 → 最新の重要判例紹介はこちら